自然流産  In Canadaー2

そうこうして 妊娠生活を送っている間、子父も

「産むなら 頑張ろう」

という前向きさで、私との距離を縮めてくるようになっていた。

 

中絶の処置を予約していたクリニックに 断りの電話を掛けたとき

「そうなの? 産むのね!」

と電話の先にいた女性の声がとっても明るかったことを鮮明に覚えている。

 

 

保険の加入の手続きが進み、保険証の発行を待っていたある日、仕事の終わりに下着が汚れていることにトイレで気が付く。

「あ、生理が始まった」

と妊娠前なら思っていたであろう 始まりの感じ。

 

この時点で かれこれ2カ月は生理が止まっていたし、妊娠していたから、すぐに私は

「これは まずい。 流産かも。」

と緊張し、 医師が言っていた 育たないかもという言葉が当たっていたのかもしれないと思う。

自宅に戻り、生理用ナプキンを当てながら安静に過ごすものの、尿意を感じてトイレに行き用を足すたびに 生理の時とは比べようもないほどの経血が出てしまう。

痛みは全くなく、いつもより頻繁に尿意を感じるというだけ。

 

あらかじめ、渓流流産について調べておいた私は 「あ、これがきっと自然流産なんだ。 育っていなかったんだ。。。」  と冷静に思う。

 

どうしよう。。。

 

緊急に飛び込んでも待たされるだけだろうし、 こんなに頻繁に子宮内膜が出てきてしまっているのに、歩けない。   

 

落ち付くまでは、ここにいよう。

 

と自宅に一人、トイレとベットを行き来する。

 

出血に気が付いてから、3,4時間くらい経っていただろうか、 うわ~!! だめだ、 止まらない!!  思わず口にするほど勢いよく体内のものが流れていくのを感じ、冷静さを失いそうだったとき、 つるん  と静かに大きな塊が出て行ったのを感じた。  痛みは全くない。  まったく どこも痛くない。 静かな 静かな 孤独な時間。。。

 

何が出たのかすくい出したものを手に取り洗うと、ちょうど鶏卵ほどの大きさの水風船のようなものだった。 黄色く透き通った卵のようなもの。  中は空っぽ。 薄黄色い透明な液体で満たされていた卵のようなものは、私の手の中でぱちんとはじけ、流れて行ってしまった。  この排水溝の行方は分からない。  少しでもきれいな水の中にあるようにと ジャンジャン水を流し続ける私。

 

私は、 赤ちゃんが育っていると思っていた私は 空っぽの卵を産んだのか?

 

終わってしまった、という予感と、 もしかして、双子のもう一人は残っているパターンかもしれない! などというすがりつくような思いとで、ひとり呆然とする私。

 

体から出てくるものがだいぶ減った後で 電話相談の窓口にかけてみると

「あなた、妊娠中に出血したなんて、そりゃあ絶対に診てもらわなくっちゃだめよ!! 」

と促され、歩いて病院の急患窓口へ向かう。  しかし、保険証が手元になかった私は、「お金 払えますか?」 と聞かれ、(確か30万円くらいだった気がする。もう覚えていないけれど) それは無理だったので、 医者に会えなかったとしてもここで相談に乗ってもらっているSocial workerに話をしたい。 と伝えると 内線で連絡を取ってもらうことができ、小さな待合の個室に通される。

 

いつもの担当さんとは別の若い女性が出てきてくれたものの、病院の受付の人と話してもらっても結局

保険がないんじゃね。。。。。

という結論に。

 

もう このさい どうでもいい。  待つのも疲れたし、生きているのも嫌になってきた。。。   

 

「もう じゃあ いいです。  帰ってもいいですか?」

と私から言い出すものの、さすがに 「それはまずい」 という感じで止められ、いろいろ調べてもらった果てに、健康保険申請中 という扱いで受診できることに。

 

事故で運ばれた急患がいるとかで、結局5時間ほどを急患の待合で待つことに。

病気はともかく、 事故ってんじゃねーよ。  と毒を吐きたいくらい長い待ち時間だった。

 

ようやく呼ばれた診察室で、問診と血液検査に内診、子宮頸がんのPapテストを受け 翌日のエコーの検査を予約して終了。(この時のPapテストが本当に痛かった。)

 

翌日のエコーの結果、子宮内は空っぽで、受精卵の異常によって起きた流産だったこと。  「1回次の生理を過ぎれば また妊娠を計画できます。 10人に一人の割合で、いやもっと多いかな? この流産はおこるものです。  喪に服す時間は人に寄りけりだけど、あまり気を落とさないように。」 と明るく話をされて帰宅した。

 

もしかしたら 感染症や激痛を伴う流産になっていたかもしれなかった出来事。

私は ずっと船酔いしている感覚があって しっかりつわりがあって 子供が育っていると信じていたぶん、ショックも大きかったけれど、大事に至らず、私に痛みを与えずにすっと旅立っていった 初めての妊娠という 貴重な経験を与えてくれた命に、そしてそれを守ろうと力を貸してくれた人たち、すべてに今でも感謝している。

 

忘れてないよ。

白い雲が映える青空に 静かに祈る。